Alternative991's Blog

アニメで気になった描写の忘れ形見

『A KITE』 バスケットボールと殺し屋の因果

※『A KITE』の根幹に関わるネタバレあり
 
梅津泰臣監督の『A KITE』と『KITE LIBERATOR』を視聴。どちらも観ていて「次は一体どうなるんだ」というわくわくが次から次に裏切られ激化していく心地よさがある作品だった。
『A KITE』の最後については解釈に幅があるので各々の思うところがありそうだけど、個人的に気になった箇所をバスケットボールを中心に抜粋。

繰り返される因果

本作は殺し屋稼業に従事する砂羽と音不利という青年男女の出会いと復讐が話の軸になっているが、物語の最後で音不利は非業にも帽子を被った少女に銃撃されてしまう。
この少女は冒頭と最後以外にも場面転換時に何度か登場していて、よくバスケットをして遊んでいる姿が映し出されている。
 

 
バスケといえば見逃せないのが音不利の部屋で砂羽と何気なくトマトに噛り付いているシーン。ここでは無造作にバスケットボールが床に置かれていて彼もまたバスケ経験者だということが仄めかされていた。
 
音不利と少女に同じバスケ経験者という共通項を作ることで、少女は殺し殺されの生活を送る音不利のこれまでの業を清算する「過去からの刺客」として、また少女自身が「第二の音不利」として繰り返される因果に組み込まれることが強調されている。こういうさりげなさはすごく好きな演出。
 

 
音不利が少女のボールを撃ち抜く場面。これは彼がバスケ経験者であることを踏まえると、単に服が汚れた腹いせではなく、ボールを手にすることで昔のバスケ少年だった自分と殺し屋稼業に身を落とした今の自分との差を実感させられて余計に腹が立ったからとも取れる。
 
音不利がボールを狙撃した際に少年は驚き転倒するが隣の少女は音不利から視線を逸らさず冷静に見つめている。
赤井がどのタイミングでこの少女を殺し屋として見出したかは分からないけど、それは物語の前からかもしれないし、この瞬間にこそ少女の素質を見抜き銃を渡したのかもしれない。

生か死か

赤井からの依頼にせよ少女の私怨*1にせよ、彼女が放った弾丸は確実に音不利を捉えている。
少女が持つ銃の仕様は砂羽や音不利と同じっぽくて、問題の銃撃シーンでは銃身上部が青く蛍光しているので放たれたのは通常の弾丸だということが予想できる(黄色だと体内で弾ける炸裂弾)
 
 
 
たぶんフィルム・ノワール的な文法だと冷淡無情にも非業の死を遂げるのが「正しい」のだと思うけど、通常の弾丸なら当たり所さえ悪くなければ…といった希望的な見方もできるようになっているのが憎い。
 
結局のところ音不利の生死ははっきりせず、最後に砂羽が待つ部屋を訪れたのが誰かは視聴者に判断が委ねられている。こうした解釈の余地を多分に残したストーリー構成が余韻を生んで噛むほどに味が出る本作の魅力のひとつだと思う。
 
お色気シーンや派手なアクションをふんだんに描きながら、殺し屋の因果に関わる要素を約50分の中にこれだけ散りばめて綺麗に畳んでいるのはお見事!
 

円を描くバスケットボール

 



 
こうやって因果に焦点を当てて見てみると、音不利が放ったシュートがリング上で円環を描くというのもそれっぽさが出ていておもしろいと思った。
 
演出意図とはずれるような意見だけど、三浦建太郎ベルセルク』第26巻で「因果は決して円環ではない。螺旋なのです」という台詞があるように、ここの場面でもボールの運動が収まってリングに落ちる軌道を円環(因果)への敗北と捉えるか螺旋と見るかで結末に対する解釈は変わってくると思う。*2

 
 


余談 ― 眼球描写

砂羽を映す横からのカットだと猫のように角膜部分に厚みがある。アニメでこれを描いているのは初めて見た気がする。
 
 
 
KITE LIBERATOR』では主人公の野口百南花がコンタクトレンズを使用していたので、もしかしたら砂羽も何かしらのレンズを装着していたのかもしれない。
 
 
 
弾かれた水飛沫が勢いよく外れるレンズを印象付けている。角膜同様そもそもレンズが外れる描写もまた見た記憶がなかったから新鮮なショットだった。
 
 

原作・脚本・キャラクターデザイン・絵コンテ・監督:梅津泰臣
作画監督:岩井優器 美術監督:池端茂
撮影監督:森口洋輔 音楽:アン・フー
アニメーション制作:アームス

*1:音不利にとってボールが大事な思い出であるように、もしかしたら少女にとってのボールも何か特別な感情を有するものだったのかもしれない

*2:このボールを最後に音不利が銃で撃ち破くことも併せて考えみると…僕は話が逸れ過ぎると思って止めちゃいました