Alternative991's Blog

アニメで気になった描写の忘れ形見

『星を追う子ども』の蝶描写

新海誠監督の『星を追う子ども』には、動物と昆虫の番いがよく出てくる。例えば、地上世界ではトンボは交尾をしたり産卵をしたりして、生の営みをする姿が描かれている。
その逆に、地下世界アガルタでは、トンボは動物に捕食され食物連鎖の一端として描かれていた。このように、『星を追う子ども』では生き物を使った演出が効果的に用いられている。
 


 
そのなかでも蝶の描写が印象的だった。地上世界で空を飛ぶモンキチョウは、黄色い♂と白い♀とで描き分けてられている。画像では♂が♀を追うかたちとなっており、これは亡き妻を蘇らせようとする森崎竜司の姿を、蝶の求愛行動になぞらえているものだと私には思えた。
 

 
また、森崎が国語の授業で死者の国について話しているとき、画面には黒いアゲハと彼岸花が映される。この蝶は、画像を見るかぎりではクロアゲハかオナガアゲハかのどちらかだ。*1
ただ、どちらのアゲハも♀の後翅表には赤斑列*2があるので、この個体は♀であると推測できる。
 

 
番いが多く描かれる『星を追う子ども』で、あえて♀の個体を単体で描く。このことは、前述したモンキチョウと同じで亡き妻を意識させる画面作りだと思う。
死者を蘇らせるために、とめどない探求を続けている森崎。そんな彼が追い求めてやまない妻の姿は、まるでふわふわと宙を舞うアゲハのように捕まえづらいものである。
 
蝶の♂♀を描き分けることで、『星を追う子ども』ではこのようなメッセージ性がより明確に描き出されていたと思う。新海監督の描く背景美術の一役として、これからは生物にも注目して視聴を続けていきたい。
 

監督・脚本・原作・絵コンテ・演出・色彩設計・撮影監督・編集:新海誠
作画監督・キャラクターデザイン:西村貴世 美術監督:丹治匠

 

*1:尾状突起(後翅の伸びた部分)が長めなので、クロアゲハの方が正解かもしれない。

*2:画像だと下の翅に7個並んでいる模様