2013年3月5日(火)にせんだいメディアテークで開催されたアニメ産業振興セミナー「アニメにおける表現方法の多様化と求められる人材 ~宮城県を舞台にしたアニメ『マグネッ娘』の制作構想などを通して~」を聴講してきたので忘れないうちに覚書き。詳細は県による告知ページ,宣伝用PDF,アニメ!アニメ!などに記載。
\※~※/部分は実例などを私が付け加えたもの
セミナーの題目
宮城県ではIT推進プラン2013に基づき,アニメをはじめとしたデジタルコンテンツ産業の振興に取り組んでいます。
http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kohou/130124-2.html
「クールジャパン」の代名詞となり,海外からも高い評価を受ける日本のアニメは,被災地復興にも力を発揮すると期待されています。
そこで,(株)DLEでFLASHアニメのヒット作品,映画「秘密結社 鷹の爪」をプロデュースされた戸田和宏氏,実力派CGクリエイターとして数々の作品に関わられている市川量也氏をお招きし,アニメ現場の生のお話を伺います。
あわせて,お二人が制作を構想されている,宮城県を舞台にしたアニメ「マグネッ娘」についてもご紹介いただきます。
3DCGの使用
映画「秘密結社 鷹の爪」では、長時間のアニメーション作成に向かないFlashを使って、低予算でも商業作品として成立させた点でアニメ業界の常識を覆す(予算は映画「ブレイブ・ストーリー」の10分の1ほど)。以後TVでもFlash作品が放映されるなど作品が多様化した。また、Flashに限らずアニメーション作家と呼ばれるクリエイターの活躍の場が広がる。(戸田氏いわく「デジタルならFlashではなくてもよい」)
比較的新しい3DCG技術は多くの監督が積極的に使いたがり、近年では脇役から主役へとなりつつある。 ex.映画「009 RE:CYBORG」,「ケシカスくん」など(いずれもフル3DCGアニメ)
3DCGアニメーションの制作過程は企画―プリプロダクション―メインプロダクション―ポストプロダクションの諸段階に分けられる。
また、3DCGを用いた下請けには①CGアニメーション,②CGレイアウト,③モニターアニメーションなどがある。
①物や人をCGで描く。建物や家具、煙や瓦礫、爆発や水面の光沢のほか、画面で人物が小さく映るときにも使われる。最近は人物を動かす際にも多用される。
②作画の前段階。カメラの向きや物の位置、キャラの配置を決める。
③忘れてしまったのでご存知の方は教えてくださいまし<(_ _ )>
\※手元にあった「ストライク・ウィッチーズ」で例を挙げると…
左:①の使用例 戦艦,煙,小さく映る船員がCG(第2話)
右:②の使用例 家具や階段を配置した後CGに合わせてセル画を描く(第5話)※/
3DCGとデジタルのメリット
物理的な制約から解放される点が大きい。現状では制作進行係は仕事の半分が原画運搬といった物流(いわく「アニメ会社に入ったのにやってることは佐○急便と同じw」)となってしまい、深夜の運転もしばしば。
また中国や韓国などに外注している場合は原画紙を詰めた通称「カット袋」を往復の飛行機で運ぶことになりコストが嵩む。
原画をペンタブなどのデジタルで終始させれば電話やメールひとつで運搬作業から解放され、旭プロダクションのように地方にスタジオを設けることも可能になる
CGは初めて作る物やエフェクトはそれなりの手間がかかるが、一度作った(特に家具家電や日常用品といった生活感ある)ものは使い回しがきく。管理、プレビューも楽。
CGやデジタルで浮いた分の時間と予算を制作以外にも社員教育や待遇改善に回せるほか、地方の才能ある人材を発掘しやすくなる。
こうした手間の減少はアニメのクオリティ面での向上も見込める。高いクオリティを目指すには一度制作したものを「直してなんぼ」でいかに多くリテイクするかが重要であり、劇場作などの仕上がりのよさはリテイクに贅沢な時間をかけることによるところが大きい。
制作になかなかデジタルが浸透しない理由としては、現場の最前線として実力・権限をもつ40代のアニメーターがデジタル(ペンタブ)で作画したがらないことなどがある。
\※CGの使用例で有名なのが「プリキュアシリーズ」のED。CGで作成すると24fpsのフルアニメーションが出来上がるため仕上がりが非常に「ヌルヌル」動くものになる。
この「ヌルヌル」感はCGアニメのよさである一方、手描きとは明らかに違う滑らかさにかえって違和感を覚える場合もある。※/
市川氏によればCGの質感を目立たせない工夫のひとつとして、コマ打ちの匙加減によるリミテッドアニメーション化がある。 これははじめからCGを8fpsで作成することもあれば、24fpsで作成した後にコマ打ちして減らす場合もあるとのこと。
「マグネッ娘」構想
現在両氏は仕事の合間合間に宮城県を舞台にしたアニメ「マグネッ娘」を制作中であり、現段階ではプロットは完成しているものの脚本にはおとしていない段階。本セミナーで公開されたデモリールは前日に完成させたもので、CGとセル画のズレなど一部に修正を加えた後動画サイトで公開予定。
※以下軽いネタバレを含むため文字色変更
デモリールを見た感じでは、登場人物は高校生と思しき主人公と同級生っぽいヒロイン、ハロのような球形ロボットとヒロインと敵対する女の子の4人がメイン。
話の軸はおそらくヒロインが手足に磁石のように磁性を帯び、鉄製のものにくっつけたり、鉄を集め(ま)る能力を持つようになったところから一波乱あって敵対する女の子と戦うというもの。
構想は市川氏が練ったもので、S極とN極のような引かれ合いや反発を人間模様として描くほか、引力によって鉄が集まり山を築く戦闘シーンなど映像的なダイナミクスも求めたという。超能力としては「エスパー魔美」に近い。
鉄は全てCGであり、登場するロボットもほぼCGで描かれる。ちなみにこのロボットは未来から来た主人公の助言役でトランスフォーマーなんだとか。
宮城を舞台に選んだ理由としては①宮城県主催のアニメーショングランプリに参加すること,②制作協力の旭プロダクションが宮城県白石市にスタジオをもつこと,③戸田氏の親戚が沿岸部在住であることが挙げられた。
デモリール内の背景は全て実際にある風景で、石巻の商店街や高台にある神社、カツカレーそばがメニューにある蕎麦屋(そば処 もりや?)や松島海岸のほか、橋の欄干に宮城県旗が描かれてたり、県民のお茶の間ではお馴染みの番組「OH!バンデス」をもじった「OH!ヒルデス」なんて作中番組もあった。
起用する声優は全てジュニアクラスなどの新人であり、何人かは地元のイントネーションを話せる人も用いたいと話す。
非常に楽しみなので続報に期待したい。
※2013.03.22 PV追記
求められる人材
- これからアニメーターを目指す人は原画をデジタル、アナログの両方である程度できるようにした方がよい。アナログできちんと出来る人はデジタルでも伸びる。基礎的な部分が大事。
- 客あっての仕事なのでファンの顔(反応)を見る。客の立場に立って1カットでも見やすいものを描く。
- アニメが好きじゃないと続かない。「自分はこれをやりたい」という気持ちのほか、共同作業だという認識もしっかりともつ。
- 自分の作品を売り込みたいなら企画書とデザイン絵を準備する。Flashなどで簡単な動画を作れるとよい。
以上。頭に入れた内容を書き出してみましたがこんな内容だったと思います。なお、同日開催された「宮城・仙台アニメーショングランプリ2013」表彰式&上映会は前回の記事に簡単な一覧があります。