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アニメで気になった描写の忘れ形見

「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st」における主導変転と対面構図

※「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st」および「魔法少女リリカルなのは」第1期のネタバレがあります。

前置き

ここでいう「対面構図」とはライバル同士や競争勢力が対峙し目線や武器を交わしている構図のこと。お互いの敵対性・相克性を分かりやすく表してくれるので会話や戦闘のほか、商品パッケージでもお馴染みだと思うが、「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st」では度重なるこの対面構図が非常に印象的だった。

ストーリーの主導側(右)と受動側(左)の構図

まず把握しておきたいのが対面構図における左右配置の一貫性。本作ではストーリーの主導側が右手に、それを受容,反発する受動側が左手に配置されている。
  
左,中:1度目の対峙で圧倒するフェイト  右:なのはが名乗る2度目の対峙
 
2人の対峙シーンは1度目、2度目ともなのはが右(上手)でフェイトが左(下手)に位置している。序盤において主人公のなのはは主導的にフェイトに歩み寄り、呼びかける存在だが、一方のフェイトは受動的にそれを頑なに拒み、排除しようと攻撃を仕掛けてくる。
画像中央はフェイトが上手に位置するためこの構図に反しているように見えるが、これはフェイトがもう1人の主人公であることと、魔法に不慣れななのはが圧倒的な力量差を前にあっさりとその主導を奪われてしまったことの表れだと思う。


※「上手・下手」構図についてはnurutaさんの演出のルールを知るとアニメはもっと楽しくなる!!が詳しい。
 
  
ジュエルシードを封印するために砲撃し合う2人

 
左:戦闘を一時休止し、ジュエルシードを集める理由を訊ねるなのは
右:フェイトが会話を拒み、再びジュエルシードの奪い合いになる
 
この左右構図は戦闘中は崩れるものの、戦闘前や小休止、決着が付く際はいずれも保たれており、左右だけではなく上下や奥行きの空間もうまく使っているのが見せ所。
序盤はあくまで戦いではなく話し合いで解決を望むなのはの姿を描くことで、彼女の優しさと心強さのほか、戦闘と敵意に恐れを感じる、少し前までは仲の良い友達と学校に通う普通の女の子であったことを色濃く描き出している。

なのはの決意と蝶の飛翔描写

  
話し合いを求めるなのはと、それに応じないフェイトを蝶の求愛行動になぞらえた描写。それぞれのバリアジャケットと同色の白い蝶(右)が先を飛ぶ黄色い蝶(左)を追いかけており、2人の心的距離は石畳を隔てて大きく離される中央画像で端的に映し出される。
 
  
続くシーンは、なのはが「私、あの子と話をしたい。だからそのために…」と悪魔らしいやりかた真剣に向き合って戦うことを決意する場面。ここでは白い蝶だけが左から現れ、しっかりとした飛び筋のまま画面右側に向かっていく。この蝶は、なのはの揺るぎない決意とともに、劇中における転換点として主導がなのはからフェイトへ移り変わることを示唆している。
 

蝶描写のあった次の戦闘。前回のなのはに応えるようにようやくフェイトが名乗りをあげる。2人の自己紹介が済んだところで舞台は整い、次回からの戦いは物理的なジュエルシードの奪い合いだけではなく、お互いの気持ちと向き合う精神的な側面が増していく。

一変する左右構図

 
左:消耗したフェイトに魔力の半分を明け渡し共闘を提案するなのは
右:協力して暴走するジュエルシードの沈静化に成功する
 
前項でなのはの決意が語られ、中盤以降はなのはの呼びかけにフェイトがどう応じるかが主軸となっていく。主導がなのはからフェイトへ移り変わったことは左右構図が一変したことからも見て取れる。

小話

少し話が逸れるが、この場面ではジュエルシードの沈静化に成功して2人が歩み寄るのかと思いきや、突如別次元から放たれた母プレシアの魔法砲撃が両者の間を引き裂いてしまう。
  
ここでフェイトの過去を振り返っておくと、彼女はプレシアの実娘アリシアのメモリークローンとして生み出されてからこれまで、母プレシアと2体の使い魔(リニス・アルフ≒従者)という小さな家族的コミュニティ内でしか生活を送ってこなかった。
後になってプレシアから「失敗作」とみなされアリシアの記憶は抹消されるものの、彼女にとって高町なのはという存在は母親からの命令遂行の邪魔であると同時に、己と心の繋がりを持とうとする初めての「他人」ということができる。自分を曝け出し相手を受け入れることに慣れてない彼女は、利害を無視し一方的に手を差し伸べ続けるなのはにさぞ困惑しただろう。
現時点では気持ちの整理が追いつかず、気を許し心の内を明かすことはできない。そんなフェイトの葛藤や呵責といった心理状態が画面を覆う“ALERT”であり、母親からの砲撃(紫電)としても描かれているのではないかと思えた。

決戦 ― 左右構図の踏襲と視感ショット

 
話を戻して2人の最後の直接対決前。ここでも主導(上手)は既に自分の想いを言葉と行動で示したなのはではなく、まだ答えを出しかねているフェイトの方である。画面ではなのはがフェイトに背を向ける構図になっているが、背を向けながらも水面に反射するフェイトと正面から向き合っているのが分かる。
 
戦闘は互いにインメルマンターンやシザーズ軌道を駆使したまま拮抗するが、その最中でフェイトは抹消されたはずのアリシアの記憶を断片的に思い出してしまう。
このことがきっかけで自我に齟齬が生じたフェイトは、攻撃に狂いが生じ鍔迫り合いの勢いをそのままに画面下手に大きく逸れていく格好となる。
既にティンときた方もいると思うが、この左右配置の変転こそが主導の入れ替わりを示す直接的な合図であり、ダイナミックな戦闘モーションと相まった演出効果にめっちゃ痺れるのである。
 
  
ここから先はスーパー主人公タイム。フェイト全力の攻撃(想い)を受け止めきってなお軽傷なのが恐ろしい。相手を受け入れたうえで完膚なきまでにやっつけるなのはさん
 
 
初めての遭遇戦で魔法に不慣れななのはが撃墜されたように、この左右配置になった時点でもう決着は付いたも同然。フェイトはなのはのディバインバスターをかろうじて凌ぐものの魔力と体力は底を尽きかけている。
 
   
付け加えれば、この決戦では左右構図を踏襲しつつ正面・中央を見据えた主観的なカメラアングル(視感ショット)が多用されており、彼女たちの正面切ったぶつかり合いを際立たせるのに一役買っている。
 
 
左:なのはが照準を見据える目の超どアップ  右:魔力を収束するなのは
 
視感ショットは演出としてはもちろん、二等分線や天元のような正確さも見ていて気持ちがいい。左右から中央へ焦点を当てることはただ魅せるだけではなく物語の収束も暗示している。

5枚の魔法障壁と決算としてのスターライトブレイカー

  
 
左右構図はご覧の通り。この魔法障壁は単なる防御としてはもちろん、精神的・心理的な壁としても捉えられ、画像中央のフェイトの伸ばされた手からは拒絶と羨望両方の気持ちが伝わってくる。
ここで注目したいのがフェイトが展開した魔法障壁の数が5枚であるということ。劇中において「5」という数は、この戦いを含めたなのはとフェイトの総対峙回数でもある。つまり、最後の1対1の戦いで5枚の障壁を撃ち抜くスターライトブレイカーはまさにこれまでの戦いの決算であり、やっとのことで2人の障壁を取り払えたことを示す重要なファクターだといえるだろう。

2カットで振り返るストーリー

  
プレシアとの総決戦を終えたラストシーン。導入部のカモメは求愛行動を取っていた蝶と対比するように離れることなく、2羽揃って飛翔していく。
 
 
続くなのはとフェイトの再開シーン。今作最大の涙腺濡れ場。
1枚目のカットではなのはが上手でフェイトが下手に、2枚目の髪留め交換シーンではカメラ位置の逆打ち(リバースショット)を用いた180度反転でその位置が逆転している。これは物語の主導が序盤と中盤以降でなのはからフェイトに移ったことのダイジェストのように思えた。
 
前項の決戦では、スターライトブレイカー前に主導が再びなのはに戻ったりもしたが、お互いの名前を呼び合い、手を取り合う友達となった2人の間にはもはや主導や受動といった構図は不要である。そのような意図がこのシーンには含まれているのかもしれない。
少し暴論ではあるけれど、対面構図を利用したたったの2カットで2人が友達になる過程を振り返れてしまうあたりが草川啓造監督をはじめとする絵コンテ勢の巧さであり、「The MOVIE 1st」の傑出した点であると思う。

おまけ ― 色指定と塗り間違い

  
画面の右側。校門前にいる女の子3人組の髪色が最後のカットだけ変わっていた。
 
続いて画面左側で歩いている女の子2人組の髪色も片方が灰色→紺色へと変化。
劇場版でも人数や動きの多いシーンでは色指定など細かい点まで管理し切るのは難しいよね。
 
なのはの誕生日である3月15日にこの記事が書けたことを「1st」に対する自分なりの区切りとして、あとは「The MOVIE 2nd A's」を楽しみに待ちたいと思います。